кино и кники

映画と本

ロシア文学:「新訳チェーホフ短編集ワーニカ」 沼野充義

内容は、ロシアの教育を受けていない貧困層の少年が、奉公先の虐待から逃げ出そうとして、必死に考える気持ちを綴っています。

 

あらすじ

沼野教授の「ワーニカ」を読みました。10分で読めますと言われた通り、とても簡単に楽しく読めました。それでは私がまとめたあらすじを少々。

ワーリカは、田舎暮らしの少年でしたが、みなしごとなり、都会へ奉公に出されました。まだ小学3年生くらいの年齢です。奉公先では誰からも愛してもらえず、憎悪に満ち溢れ、とても寂しく、毎日怯えて暮らしています。児童虐待が日常茶飯事です。ワーニカは、田舎での温かかった暮らしを思い出します。そして田舎で学んだ知識や、都会で繋いだ僅かな知恵から切実な思いで、助けを叫ぶ手紙を書きました。

じいちゃん、すがれる人はじいちゃんしか居ないんだ、迎えに来て!おれの出来ることは何でもするから!手紙をポストにさえ入れれば、必ずじいちゃんに届いて、おれを迎えに来てくれるんだ・・・

ワーニカは世間を知らずに、また前の生活に戻れると言う、期待と希望を持って甘い夢の中へと入っていきました。

時代背景

当時のロシアの識字率は29.7%、たとえば1万人居たら、およそ7千人は字が読めませんでした。

 

チェーホフ存命は、まだ帝政ロシアの時代。それこそ身分格差の社会で、教育は貴族だけの特権だったのでしょう。ロシアの名君エカテリーナ二世は、啓蒙思想にもとづく法治主義を表明して、それでもフランス革命は認めなかったことでも有名ですね。民のための政治と言えども、国民が王政を打破したことは、君主にとって許せないんですよね。

 

私は、啓蒙思想とは、世のことを誰もがちゃんと考えられる知識を持ちましょう、と記憶しています。

啓蒙とは、「光で照らされること(蒙(くら)きを啓(あき)らむ)」自然の光(ラテン語: lumen naturale)を自ら用いて、超自然的な偏見を取り払い、人間本来の理性の自立を促すという意味。(Wikipediaより参照)「パン屋にパンを作る以外のことがわかるって言うの?靴屋に靴以外のことがわかるって言うの?」池田理代子著・女帝エカテリーナに、こんなセリフがあります。女帝が革命を否定する言葉です。

民主主義も、共産主義も、理想国家として目指す素晴らしい思想かもしれませんが、叶った先はまだまだ課題が山積みで、結局はどんな主義が良いかなんて、人が人である限り、難しいのかもしれませんね。結局、私たちの時代の先進国は資本主義に傾き、1人1人に与えられた生まれや運命を受け入れるには、個々の心が弱すぎると思うのです。

ロシア人と名前

ワーニカは、イワンと言う男の子のあだ名です。それをワーニカと呼ぶのは、相手を下に見ている表現だそうです。日本人に親しみやすく、イワン改め、ワン公・ワン助とありましたが、なるほど。昔、私が中国語の本を読んでいた頃、中国語圏内の年下男性に小○○と呼びかけたら、良くない表現だと教えられました。中国語では、「老先生」などと呼ぶことが尊敬の意味を表します。Mrs.Missくらいの感覚ではないんですよね。

ロシアに触れると、愛称はよく見かけます。アレクセイはアリョーシャ、アレクサンドルはサーシャ。あだ名は一概には言えず、ワタナベ君が必ずナベちゃんって訳でもないようです(基ネタはさくらももこちびまる子ちゃん」)。女性名・エリザヴェータには、神+誓いの意味があり、リーザとか、リゾーチカとか変えて呼びます。これは私の勝手な想像ですが、名が聖なるものとされているから、愛称もある程度の固定をするのでしょうか?

ロシアには「名の日」と呼ばれる祝日があり、誕生日代わりに、名でお祝いするほど定番化されているようです。定番な名前をつけて、今日は恵子の日、おめでとう〜、じゃあ次の優子の日にもお祝いね。イメージは、1月は一郎、2月は二郎、3月は三郎の日?

再び想像を交えてしまいましたが、そんな背景がありまして、ロシア人の名前は、名前・父称・姓の3つで成り立っています。名前+父称が、一郎氏、三郎先生の表現を表すのだそうです。そりゃそうでしょう、例えばお役所に行って、名が花子さんで溢れていたら、山田花子さんだけじゃ限界があるでしょう。

名前について、私がまずイメージしたのは、ハリー・ジェームス・ポッターかなと。ハリー(名前)・ジェームス(ミドルネーム・父親の名前)・ポッター(名字)。ロシアではもっともっと、名前は深い意味を持つのでしょうが。ちなみに、イギリスに近いアイルランドでも父称をつかうそうです。女性表現では父称がちょっと変わります。ミハイロヴィッチが、ミハイロエヴナとか。

ウラジミール・レーニンは、レーニン先生?よく聞く名前だけれども、実際は、ウラジミール・イリイチ・ウリヤノフ・・・ネットで検索してみると、レーニンとは「レナ川の人」の意味で、ペンネームだそうです。ロシア革命の指導者レーニンは、指導者として前に立つことよりも主に執筆活動で精力的な指導を行ったと別の本で読みました。ペンネームか、納得。

名前について語るにも、まだまだ学び足りない私です。

感想

戯れで字を教わったワーニカ。心を誰かに届けるまでの知識は教えてもらえなかったワーニカ。彼の心を思いやろうとは誰も考えない世の中で、彼は、主張することをちゃんと知っていたのです。ロシア農奴時代の幼児虐待は日常的で、とても悲しくなりました。

 

また機会があれば、児童虐待の観点やドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の”反逆”から、ワーニカについて書いてみたいと思います。